1dayソクラティックダイアログ開催報告
日時 2020年11月29日(日) 9:00-19:30
会場 タラコーヒー&ハーブ参加者 6名
進行 赤井
テーマ Win-Win関係は成立するか?
コロナの影響などで延期していた第4回目のSDを開催しました。今回の会場は、以前からぐれいぷハウスの事業にご協力いただいている「タラコーヒー&ハーブ」さんです。
いつも使っている会場がたびたび閉鎖され、予定が立たなくなっていました。丸一日貸し切りで使わせていただくことができ、ようやく開催にこぎつけました。
会場は皆さんにとって初めての場所です。分かりにくいかなと思いましたが、皆さんスマホアプリを駆使してお集まりいただきました。幸い穏やかな冬の一日、頭をひねるにはちょうど良い日でした。
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ステップ1 事例の紹介と自己紹介自己紹介を兼ねて参加者の皆さんに事例を紹介していただきました。
いつもの会場とは違って喫茶店なので、朝一番にお好みの飲み物を出していただきリラックスして始まりました。
事例を紹介していくと、さっそく「これは自分の事例なんですかね?」という疑問が出ます。開始早々ですが、進行役から「メタ・ダイアログ」を提案しました。
<メタ・ダイアログ>次のステップで今日考えていく事例を一つだけに絞り込みます。今日のテーマであるWin-Win関係を表している事例か。考えやすい事例か。これらの目的に合致しないものは選ばれません。ご懸念のある場合は次のステップでその旨を皆さんと検討していただければよいと思います。このSDでは時間の制約上、事前に事例を提出していただいています。その場で事例を出しなおすことをしません。
了解をいただいて先に進みます。ただ、もう少しゆっくり構えて出し直しをある程度認めてもよかったのではないか、と反省しています(余裕がなかったです)。
ステップ2 例を選びます。
ここでは参加者が提出した事例が、何を表しているのか検討していきます。すると話し合いの中から、今日のテーマの考えるべきポイントが出されていきます。
・Win-Win関係は2者間で成立するものなのか。
・ほかに条件がある場合はどうなるのか。
・妥協はWin-Win関係ではない。ゆえに契約はWin-Win関係ではない。
・Win-Win関係は個人的な満足を求めているのではないか。
・Win-Win関係ではお金は関係がない。
・普通の買い物はなぜWin-Win関係だと思わないのか。
・永続性が関係しているか。
・条例やルール、契約などに従うこととWin-Win関係の関係は?
・・・など
これらに言及しながら、テーマを考えるのにふさわしい事例を絞り込みます。ほぼ意見が出尽くしたと思われるところで、各自がふさわしいと思う事例に投票してもらいました。一人2回手を挙げていただくと、ある事例が5票と多数を集めました。
再び、得票の多かった事例で進めることが良いか話し合いを行います。ほぼ時間通りに事例を選ぶことができました。
ステップ3 事例の詳細の記述事例提供者に詳細を伺っていきます。この過程で提供者だけの事例だったものがそれぞれの参加者に内在化し、「みんなの事例」になっていきます。
そうなることで多くの人の経験や知識がこの事例の理解に役立つようになります。一見関係のなさそうな事柄が大事な役割をしていることに誰かが気が付くことができる。このためにも根掘り葉掘りとことん聞いていきます。
事例提供者は言いたいことを言うのではなく、聞かれたことに答えていきます。
また、詳細を記述する際には時間軸が重要な役割をします。
事例が参加者全員のものとなるためにはそもそもなぜ事例のような状況に至ったのか、から理解することが大事だからです。そして、事例の起きるもっと前から何事かが始まっているものです(今回は十数年前からでした)。
ところが今回はいきなり核心というか結論に近い部分から詳細が語られ始めました。事例提供者の何か言いたい、という雰囲気が他の参加者に伝わったのだと思います。質問が滞りました。
こんな時はメタダイアログに移行するのがよいと思います。しかし、1daySDの時間的な制約を考え、異例だなとは思いながら進行役が介入しました。
<進行役の介入>「そもそも、事例は提供者さんのどんな活動にかかわることですか?」から時系列にざっと聞き出します。ここからは参加者の質問によって詳細を明らかにしていきました。模造紙2枚に渡って詳細をかき出しました。
ここでお昼の休憩です。タラコーヒー&ハーブさん特製のスープランチをいただきました。具沢山の野菜スープととても美味しいパンをいただきます。
休憩中にぶらりと散歩に出られる方もいます。となりは八幡神社で尼崎の駅近ですが意外に静かで緑が多い場所です。
室内で午前中のセッションの続きをされている方々もいて、それぞれ午後のセッションに備えます。
ステップ4 主となる中核的な判断を選び、問いを立てますまず、詳細が書かれた事例を繰り返し読み直します。進行役や参加者が声を出して読みます。各自が気になった部分を言い合います。今回は15か所に印が付きました。
参加者は自分の体験として内在化した事例をいわば「思い出しながら」「自分が大事にしていたこと」を言い合います。印をつけたい場所はバラバラになります。
過去のSDではセンテンスを選んでもらっていたのですが、今回は単語でも構わないことにしました。結果としてそのほうが選びやすく、文として構成しやすかったようです。
続いて、なぜそこが大事だと思ったのかを話し合います。すると、あまり関係がなさそうに思っていた事柄同士が絡み合っている、そこをうまく表現するとすっきりします。中核的判断は、次のようなものとなりました。
中核的判断
・負けたような気もするが、気持ちよく感じる。先を見越した戦略がWin-Win関係を成立させる。この中核的判断から問いを立てます。これもいろいろな案が出されたのち、集約されてできた「主となる問い」は次の通りです。
主たる問い
・当事者間の相互利益でWin-Win関係が成立したことを誰がいつ認めるか?
ステップ5 主となる問いの答えを探します。ここからはダッシュ!した感があります。喫茶店ではありますが、持ち込みを許可していただいたチョコレートや飴玉、差し入れのおかきなどで糖分を補給!
はじめに問いの最後にある「認める」に話題が集中します。認めるまでに時間がかかることがある。それは「歴史的」な時間ではないかなどから、今度は「誰が」に話題が移ります。
関係者、世間などと言い合っているうち、どなたかが「自分」と言われたことに皆さんが反応します。
当事者と判断をする人との関係性に話が移っていきます。親子関係はWin-Win関係ではない、などと外堀を埋めるような意見も出ます。「介在者」というワードが出てきました。介在者の役割を検討するうち、Win-Win関係に介在者は邪魔である、Win-Win関係はピュアな当事者同士の関係である、などの意見が出ます。
やがて、WIn-Win関係は儚い関係だという意見が出ます。
時計は4時過ぎを差しています。ここでブレイク。各自飲み物を注文し、名物のタルトをいただきます。お店からの差し入れで赤福もちもいただきます。
答えを作成します。
話し合いの中から出てきたキーワードを頼りに答えを作っていきます。まず、どなたかにたたき台を出してもらいます。
今この私がWIn-Win関係の対象に対して主体的に判断する。
と言っていただいたのを皮切りに4つの案が出ました。それぞれの案に含まれている単語同士のつながりを考えていきます。何が言いたいのか、すこしづつ見えてくる感じです。
常識と道徳観、歴史と倫理観の異同を検討していると、生活経験という言葉が出てきます。経験と体験は違う、などと細かな吟味が続きます。
答えを書き始めて約1時間半、皆さんのたどり着いた答えは次の通りでした。
答え
今、ここの私が、WIn-Win関係の成立に対して経験・知識・良心に基づき主体的に判断する。この判断は将来変わり得る。
ステップ6 事例に戻るさて、参加者の皆さんが約10時間かけてたどり着いた答えは、合っているのでしょうか。この答えを採用された事例に当てはめて検証してみます。
事例提供者は事例に掲げたことをWIn-Win関係であると判断しました。自分が外食をした経験、外食産業に関する知識、そして良心に基づいてそのように判断し、このSDに提供しました。そして今でも、判断に変わりはない。
枝葉を取った事例の根幹に、この答えは適合しているようでした。
他のWin-Win関係の事例である、と思われる事例にも答えを当てはめてみて検証します。
どうやら、今回はまずまずいい答えが得られたようでした。
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長時間のセッション、参加者の皆様お疲れさまでした。最後の方では「もう、頭回らん」などとおっしゃる方も多くなり、疲労困憊の様子がうかがえました。
思いもかけず、結論にたどり着きました。第2回目の時も結論には至りましたが、時間に追われ今一歩不消化な感じが残りました。今回は結論に至るまでの検討された事項を含み、Win-Win関係の儚さを認識できるまでに至ったと感じています。
流行りすたりによって人口に膾炙する言葉には吟味される間もなく、なんとなく使われ、なんとなくわかった気になり、なんとなく納得できないものが多いように思います。
個人的には「Win-Win関係」は「勝ち組」という言葉と一緒にバブル崩壊後の悪あがきのようなものではないか、と思っていました。
皆さんがたどり着いた答えには、どこのどんな関係についても自分が判断することでしか、Win-Win関係はあり得ない。と言っているようです。
つまり自分がWin-Win関係だと主張しても、他者から同意を得られるとは限らない。他者が経験・知識・良心に基づき主体的に判断してきた場合に、いとも簡単に自分が思い込んでいたWin-Win関係は儚く終わるものですらある。ということなのかもしれません。
さて、1dayソクラティックダイアログは現在、第一クルーの2回目が終わったところです。第一クルーの大テーマは「戦争を放棄するとはどういうことか?」です。このテーマを考えるためにサブテーマをいくつかこなしています。
次回のサブテーマは「ルールを破るとはどういうことか?」です。
日時は平成3年1月31日(日)を予定しています。会場は今回と同じタラコーヒー&ハーブさんの予定です。
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