「社会性蜂の不思議な社会」松浦誠どうぶつ社 1988/9/20
若いころに社会学を学び、たいした理解をすることもありませんでした。
しかし、50数年生きてきて人生の一つの区切りを迎えようとする今、もう一度社会学へ立ち戻ってみて見えてくるものがあるのではないか。と言う興味がわいてきています。
この本は、蜂の社会性そのものに焦点を当てて論じているものではありません。動物学として生物学として蜂の観察とその記録です。
そこには専門家ではない私たちには想像もつかない、複雑な営みがあり不思議な現象があります。
それらの現象に、生物学、進化学、生態学などの手法を武器に、しかし文字通り体当たりで観察を続ける動物誌として興味深いものがあります。
さて、蜂にはこんな思い出があります。
足長蜂が巣を作りました。その場所はキッチンの換気扇の中。夏のはじめのころでした。単身赴任先のアパートでは、お湯を沸かす程度ですので換気扇はあまり使っていませんでした。
気が付いた時には、部屋に足長蜂が5,6頭飛び回るほどで換気扇を覗くと、立派なあのハスの実状の巣ができていました。
どうしようか、一日二日と考えているうちに巣がぐっと大きくなっているではありませんか。巣を取り除くよりしかたなく、ガスコンロの火を最大にして湯を沸かして湯気を上げ、換気扇を回しました。熱気と蒸気が巣を直撃です。
隣の部屋の窓から身を低くして外の様子をうかがうと、蒸気が換気扇からバンバン排出されています。蜂は巣を離れ、でも遠くに行かずに何とか巣に近づこうとホバリングから接近しては「熱っ!」と言って飛び離れます。
中には換気扇のフードに着陸するものもいますが、もちろん、次の瞬間にはその場を離れます。その数20頭ほどでしょうか。
最初は、真っ直ぐ近づこうとして失敗すると、いったん壁際にまで寄って横から接近する、換気扇の真下から壁沿いに接近を試みるなど、多彩な戦略を試しています。
1時間ほどそのままにしていると少しづつ蜂の数が減ってきました。遠くへ行ったのではなく、もう少し広い範囲を飛び回っています。
その隙に棒を持って身を低くして巣に接近し、巣を叩き落としました。柄の部分が残るとまたすぐに再生してしまうと聞いたことがあったので根元からきっぱりと落しました。
落ちた巣には幼虫が育房の中でまだ動いています。食べたらおいしいかもとちらっと思いました。
驚いたのは、蜂たちがすかさず寄ってきたことです。巣の近くに止まって様子を見たり巣のまだ動いている幼虫に触角で触れているようです。
幼虫の中には育房から這い出してきたものがありました。その幼虫に蜂が近づきます。何をしているのかはわかりませんが、私には助けようとしているようにしか見えません。落ちた巣のそばにはいつの間にか蜘蛛やアリが集まってきました。
その次の日、幼虫は動きを止め、アリがたかっていました。落ちた巣にはもう蜂は集まっていません。でもまだ蜂は去ってはいません。
巣のあった換気扇の近くをまるで「ここにあったはずなのに」と言いながら飛び回っています。
蜂は翌々日までときどきやってきました。ホバリングしながら換気扇の近くを訪れてはまるであきらめたかのように去っていくことが繰り返されました。
この出来事を通して、私は「蜂にも子を育て巣を守る、そこには苦労や未練もあればあきらめも必要な世界がある」と、当たり前のことのようですが改めて感じました。しかし私は、蜂の「社会」がそこに成立していると感じたのではありません。
未練や悔しさ、よろこびや苦労をよしとして慈しむ、と言う人間に備わっている感情を蜂が持っていることを確信したのです。
それからさらに、嫉妬や未練など人間だから抱く感情と思っているものはおそらく昆虫でも知っているのではないか。と思うようになりました。あるいは、人間は、複雑な社会を構成しコミュニケーション能力や豊かな感情が発達していると考えるのは少し違っていて、感情は、生物が発生した極めて初期の段階から持っているものではないか、と思うようになったのです。
この分野の研究がどの程度進んでいるのかわかりませんが、「動物社会学」なる分野があるようなのでしばらく探索してみようと思います。
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- 2012/03/20(火) 13:06:59|
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公園にお散歩に来ました。
ミニチュアシュナウザーの「のえる」君に遭遇。まだ5か月なのにヨーキーの倍よりでかい。のえる君の好奇心旺盛な「ごあいさつ」にへっぴり腰のレンでした…。
- 2012/03/10(土) 17:53:45|
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夜遅く帰るときは満月は真上にあります。月が語るのか月に語るのか、それがどうした、と言う声がします。
- 2012/03/08(木) 11:17:14|
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